一次創作
「死なないで」
彼女は言った。 僕の顔が、今にもベランダから飛び降りそうなくらい張り詰めた顔をしていたらしい。 自分でも気づかないうちに。もしかしたら彼女が前に居なかったら、本当に命を絶っていたかもしれない。
「死ぬときには君を悲しませないように、最大限の努力をするよ」
僕は軽口を叩くように言ったが、それは場の雰囲気を微妙にさせただけだった。居心地の悪い時間。 沈黙が怖くなったのはいつからだ。
「私は、あなたがどう死のうと悲しむことに変わりはないから」
彼女はポツリと言って、立ち上がった。ああ、あんなことを言ったから捨てられるんだ。きっと彼女はカバンを持って、玄関から出て、2度と僕に会いにくることはないんだろう。そう思うと彼女の手を掴んで縋りたくなった。しかし、そんな勇気さえ、僕にはない。ただひたすら自分の拳を見つめるばかりだった。
「はい」
彼女は、2つのマグカップを持って、僕に1つを手渡した。温かい何かがマグカップを満たしている。ほんのり香るのはスパイスだろうか。
「落ち着くよ。チャイラテ」
彼女は僕を捨てなかった。それどころか、彼女なりの方法で僕を支えようとしてくれていた。彼女の入れてくれた飲み物を一口飲むと、喉がつかえるようなかんじがした。
「生きる価値があるんだろうか。生きてていいんだろうか」
僕は自分に尋ねるように口に出す。
彼女は言った。
「死ぬことだけが生きることから逃げる道ではないんだよ」