カオここ
『飾らない君が』
「カオルくん、Snowって知ってる?」
ある日の帰り道、話題を探していた私はふと思いついて彼に尋ねた。
「スノー?雪?」
「ううん、Snowっていうアプリなんだけど…。見せたほうが早いよね。ちょっと待ってね」
と言ってごそごそと鞄から自分のスマホを出し、Snowを開く。
「こうして、写真を撮ると、すごい可愛くなるんだよ!別人みたいに!」
と言って試しにカオルくんを撮ってみる。カオルくんはもともと端正な顔だから、あまり盛れなかったけれど、いつものツンとしたクールな顔が、少し可愛らしく加工されていた。
「わぁ、カオルくん美人さん!」
先ほどよりむすっとしているカオルくんと、画面の中のカオルくんを見比べながら笑う。
「……。貸して」
ふっと差し出された手に、わたしは反射的にほいっと携帯を置く。
カオルくんはおもむろにレンズを私の方に向け、ボタンを押した。
「はい。……可愛く撮れたよ」
渡された画面に映っていたのは、何の加工もされていない、いつもの私の顔だった。
「うぇっ、カオルくんこれ、普通のカメラだよっ!?」
「だから?」
ぶっきらぼうにいうとカオルくんはスタスタと前を歩いて行ってってしまった。
「えっちょっ……」
手元に残された携帯にもう一度目をやる。じっとこちらをを見つめる私の顔は、少しだけ赤らんでいた。
(もしかして私、カオルくんといる時、いつもこんな顔してるの……?)
そう考えた瞬間顔が熱くなり、私は恥ずかしさをかき消すべく、カオルくんの後を追いかけた。
あの時さりげなくカオルくんが、「可愛く」と言ったことに私が気づいたのは、もう少し後だった。