もの置き場

日々の妄想とかを雑にまとめたブログです。 初めての方はaboutページをご一読お願い致します。

一次創作/未完③

前回、前々回の続きです。すごく長くなりました。

 

4月29日

朝は笹が興奮して大変だった。なんとか笹を宥めて学校に送ったが、そんなに嬉しそうな笹をみれて内心はとても嬉しかった。

 

 

今日の夕飯は明ちゃんも食べに来るので、大皿料理を作ることにした。昨日のうちにメインのポトフの下ごしらえと、スープ、デザートの用意はしたので、あとは家に帰ってサラダの用意をするだけだ。明ちゃんのお母さんとは、私が放課後に笹と明ちゃんを迎えに行き、夕食後に明ちゃんのお母さんが迎えに来るということになっている。
(やっぱり子供はフライドポテトとかのが喜ぶかなあ。家にストックがあるし、保険として揚げとこう。余ったら明ちゃんのお母さんにお裾分けしよう)
そんなことを考えながらボーッと1日を過ごした。

 


「篠ちゃん!」
放課後、学童に行くと笹と明ちゃんが手を繋いで駆け寄ってきた。2人とも楽しみで仕方がないみたいだ。
「よし、先生にご挨拶して3人で帰ろうね」
荷物を持って来るよう促し、先生方に事情を説明する。私からも明ちゃんのお母さんからも事前に一報入っていたので、先生方はにこやかに見送ってくださった。

 

 

3人で歩いて家に帰った。
「ただいまー」
「おじゃまします」
明ちゃんはごく自然に靴を揃えて置いた。
(育ちのいい子なんだなあ)
なんて思いながら私はキッチンに向かう。エプロンをつけ髪を束ね、ポトフをオーブンに入れスープを温める。
「ねえお姉ちゃん、笹お手伝いしたい!」
笹がキッチンにパタパタと入って来る。明ちゃんも、笹の後についてキッチンに入ってきた。
「手伝うことかあ。もうサラダくらいしか作るものないけど……じゃあ2人は野菜を洗ってくれる?」
「うん!」
2人仲良く返事をして、ニコニコと野菜を洗い始めた。そんな姿を見ながら私は彼女たちの洗ってくれた野菜をゆっくり切っていく。

 


「痛っ」
普段の自分のペースで切らなかったせいか、2人に気を配っていたせいか、手の先を少しだけ切ってしまった。血が少しだけ出ている。
「篠ちゃん、大丈夫?」
笹と明ちゃんが心配そうに見ている。
「うん、少し手を切っちゃっただけだよ」
「笹ちゃんのお姉ちゃん、よかったらこれ使って」
笹ちゃんがポケットから可愛らしいハンカチを取り出して渡してくれた。
「ありがとう明ちゃん」
こういう時は遠慮せずに受け取るのが吉だと知っているので、私は明ちゃんのハンカチで傷を拭いた。そのハンカチからする香りは、どこかで嗅いだことがあった。

 


「洗って返すね」
そう明ちゃんに伝え、ハンカチをポケットに入れて作業を再開した。笹と明ちゃんも、野菜洗いを再開し、数分後には山盛りのサラダができていた。
「よし、2人とも助かったよ。ありがとう。ポトフができるまで2人で遊んどいで」
「うん!」
2人で仲良くリビングで遊び始めた。私はその間にポテトを揚げ、スープとサラダも盛りつけて、テーブルに並べる。
(あ、制服のままだった)
ささっと部屋着に着替え、キッチンに行くとちょうどポトフができたので、それも盛り付け妹たちを呼んだ。

 

 

「美味しい!」
「お姉ちゃんのお料理、美味しいでしょ!」
笹が自慢そうに明ちゃんに言った。明ちゃんは笑顔でこくこく頷いている。
「笹と明ちゃんの手伝ってくれたサラダも美味しいよ」
2人はそれを聞いて、嬉しそうに顔を見合わせて笑っていた。

 


やはり料理は作りすぎていたので、明ちゃんへのおすそ分けにとタッパーに詰めた。
笹と明ちゃんは2人でおままごとらしい遊びをしている。
そのとき、ピンポーンとインターホンが鳴った。玄関に向かいドアを開けると、知らない男の人が立っていた。
「明を迎えに来ました」
「…はあ」
すこし訝しげに返事をする。このご時世なんだから、誘拐なんて可能性もあるし。
その時、笹と明ちゃんが玄関にやって来て、
「あ、お兄ちゃん!」
と明ちゃんが嬉しそうに言った。

 


明ちゃんが荷物を取りに行っている間に、お兄ちゃんと呼ばれた人に謝った。
「すみません、変な態度とって。このご時世なので警戒してて。はじめまして、笹が妹さんにお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそお世話になってます。あと、はじめまして……じゃないよ」
「え?」
「同じ高校にいる、花鶏さんでしょ?」
向こうは私を知っているようだが、私はさっぱり心当たりがない。特に入学して約1ヶ月、周りに関心を持たなかったのでしょうがないが、なんかきまりが悪い。
「…覚えてない?昨日俺、花鶏さんの隣に座ってたんだけど……」
「あ、あのいい匂いの人」
ここまで言われて合点がいった。先ほど明ちゃんのハンカチを借りた時に思った、どこかで嗅いだことがある匂いとは、彼の匂いだったのだ。
「いい匂い?俺が?ああ、母さんの趣味の柔軟剤かな」
「うん、すごい好きな匂いだったから」

 

 

「おまたせっ!」
明ちゃんがパタパタと玄関にきて、靴を履きはじめたので、会話はそこで終了となった。


「あ、そうだ、ちょっと待っててください」おすそ分けがあるのを思い出しキッチンに戻り急いで持ってくる。
「今日張り切って作りすぎちゃったんで、よかったら食べてください。入れ物は返していただかなくても大丈夫です」
「いや、明日学校で返すよ。ありがとう」
彼はそう言うと明ちゃんの手を引き、笑顔で会釈をして出ていった。

 

 

「楽しかったね!」
笹が興奮冷めやらぬといった様子ではしゃいでいる。
「よかったね。さ、お片づけしてお風呂入って寝よっか」
「はーい!」
すこしドタバタしたが、笹の喜ぶ顔が見れたのでよかった。そんなことを思いながら私は笹と食器を洗った。その時にはすでに、彼のことは頭から抜けていた。