もの置き場

日々の妄想とかを雑にまとめたブログです。 初めての方はaboutページをご一読お願い致します。

文カナ

もうすぐ年が明ける。いつもなら1人引きこもっていた年明けも、今年はカナと一緒だ。

「文太くん、あっちに甘酒あるよ!」

カナがはしゃいだ声で言う。僕は行っといで、と身振りで示し、カナの背中を見送った。初詣なんて来たのは初めてだ。少なくとも俺の記憶では。もしかしたら、幼い時は来ていたかもしれない。しかし、この人の多さなら、去年までの自分は正しかったと思う。人混みが得意な方ではないし、神に新年の挨拶をするなんて、言葉は悪いが馬鹿げている。いくら伝統といえど、俺には理解できない。

 

しかし、カナがいるから、今年は来てよかったと思う。初詣だけでなく、カナは色んな場面で俺の原動力となってくれている。彼女は俺の人生を彩ってくれる。青、黄色、緑、赤。彼女は意識していないかもしれいないが、俺の人生は本当にカナと出会った日から色づき始めたんだ。

 

ふとカナの走って行った方を見やると、丁度走ってくる彼女が見えた。鼻を赤くして、ニコニコと笑いながら二つのカップを持って走ってくる。

「はい、文太くんの分の甘酒。熱いかな?気をつけてね。………文太くん、嬉しそうだね」

カナが俺の顔を見ながら笑う。俺はハッと口を押さえる。自分でも気づかないうちに口角が上がっていたようだ。

「文太くんそんなに甘酒好きだったんだね。今度お母さんの自家製甘酒飲みに来る?なかなか美味しいよ」

カナは俺が甘酒に喜んでいると思ったらしい。正直甘酒は苦手だったが、本当の笑顔の理由を説明するのもこっぱずかしいので曖昧な返事をしカップの中の甘酒を口に流し込む。

 

「……あ、美味しい」

それは自分の知っている、タールのような飲み物ではなく、ほんのり甘く暖かい飲み物だった。こんなに美味しく感じるのは、この甘酒が実際に美味しいのか、カナが持って来てくれた甘酒だからか。多分後者であろう。あまりの単純さに自分でも笑ってしまう。そんな僕を見てカナも嬉しそうに笑う。なんて幸せなんだろう。こんな時間が……。

 

 ふと気づくと、前に並んでいた人はいなくなり、自分たちが参拝する番であった。カナと2人でお賽銭を入れ、鐘を鳴らし、二礼する。お願い事など馬鹿馬鹿しいといつもの自分ならしなかっただろうが、今日は驚くほどスルスルと願い事が頭をよぎった。

(カナとできるだけ長く同じ時間を過ごせますように)

 

拍手をしもう一度礼をし、カナを見やると、カナは未だに何か願っているようだった。きっと優しい彼女のことだからみんなのことを祈っているんだろう。僕は彼女が拍手をするのを待ち、先程来た道を戻る。

 

(カナに何をお祈りしたか聞かれたら、正直に言ってやろう)

照れる彼女を想像しながら彼女の手をごく自然に取り、歩き始める。きっと神様がいるなら、来年も俺は、カナとこの神社でお祈りしているだろう。そう思うと、また無意識に笑みがこぼれた。