もの置き場

日々の妄想とかを雑にまとめたブログです。 初めての方はaboutページをご一読お願い致します。

新年のご挨拶

遅ればせながら新年のご挨拶をさせていただきます。

昨年は文章を書き始め、このブログを始めた思い出深い年でした。まだまだ経験も浅く、日々勉強することばかりですが、自分のペースで今年もゆっくり活動していけたらと思っています。

昨年お世話になった皆様、今年もどうかよろしくお願いいたします。

 

2018年1月2日 Avril

三題噺/140字小説

文明が崩壊して20年後。今を生きる人類たちは過去の人類たちに何を思うのか。彼らは失敗から学ばなかった故に過ちを繰り返し、最終的に自身を滅ぼしてしまった。誰も幸せになれなかった世界。彼らの仕事はその記録を残すこと。

 

お題:崩壊、文明、今

 

 

文カナ

もうすぐ年が明ける。いつもなら1人引きこもっていた年明けも、今年はカナと一緒だ。

「文太くん、あっちに甘酒あるよ!」

カナがはしゃいだ声で言う。僕は行っといで、と身振りで示し、カナの背中を見送った。初詣なんて来たのは初めてだ。少なくとも俺の記憶では。もしかしたら、幼い時は来ていたかもしれない。しかし、この人の多さなら、去年までの自分は正しかったと思う。人混みが得意な方ではないし、神に新年の挨拶をするなんて、言葉は悪いが馬鹿げている。いくら伝統といえど、俺には理解できない。

 

しかし、カナがいるから、今年は来てよかったと思う。初詣だけでなく、カナは色んな場面で俺の原動力となってくれている。彼女は俺の人生を彩ってくれる。青、黄色、緑、赤。彼女は意識していないかもしれいないが、俺の人生は本当にカナと出会った日から色づき始めたんだ。

 

ふとカナの走って行った方を見やると、丁度走ってくる彼女が見えた。鼻を赤くして、ニコニコと笑いながら二つのカップを持って走ってくる。

「はい、文太くんの分の甘酒。熱いかな?気をつけてね。………文太くん、嬉しそうだね」

カナが俺の顔を見ながら笑う。俺はハッと口を押さえる。自分でも気づかないうちに口角が上がっていたようだ。

「文太くんそんなに甘酒好きだったんだね。今度お母さんの自家製甘酒飲みに来る?なかなか美味しいよ」

カナは俺が甘酒に喜んでいると思ったらしい。正直甘酒は苦手だったが、本当の笑顔の理由を説明するのもこっぱずかしいので曖昧な返事をしカップの中の甘酒を口に流し込む。

 

「……あ、美味しい」

それは自分の知っている、タールのような飲み物ではなく、ほんのり甘く暖かい飲み物だった。こんなに美味しく感じるのは、この甘酒が実際に美味しいのか、カナが持って来てくれた甘酒だからか。多分後者であろう。あまりの単純さに自分でも笑ってしまう。そんな僕を見てカナも嬉しそうに笑う。なんて幸せなんだろう。こんな時間が……。

 

 ふと気づくと、前に並んでいた人はいなくなり、自分たちが参拝する番であった。カナと2人でお賽銭を入れ、鐘を鳴らし、二礼する。お願い事など馬鹿馬鹿しいといつもの自分ならしなかっただろうが、今日は驚くほどスルスルと願い事が頭をよぎった。

(カナとできるだけ長く同じ時間を過ごせますように)

 

拍手をしもう一度礼をし、カナを見やると、カナは未だに何か願っているようだった。きっと優しい彼女のことだからみんなのことを祈っているんだろう。僕は彼女が拍手をするのを待ち、先程来た道を戻る。

 

(カナに何をお祈りしたか聞かれたら、正直に言ってやろう)

照れる彼女を想像しながら彼女の手をごく自然に取り、歩き始める。きっと神様がいるなら、来年も俺は、カナとこの神社でお祈りしているだろう。そう思うと、また無意識に笑みがこぼれた。

一次創作

「死なないで」

彼女は言った。 僕の顔が、今にもベランダから飛び降りそうなくらい張り詰めた顔をしていたらしい。 自分でも気づかないうちに。もしかしたら彼女が前に居なかったら、本当に命を絶っていたかもしれない。 

「死ぬときには君を悲しませないように、最大限の努力をするよ」

僕は軽口を叩くように言ったが、それは場の雰囲気を微妙にさせただけだった。居心地の悪い時間。 沈黙が怖くなったのはいつからだ。

「私は、あなたがどう死のうと悲しむことに変わりはないから」

彼女はポツリと言って、立ち上がった。ああ、あんなことを言ったから捨てられるんだ。きっと彼女はカバンを持って、玄関から出て、2度と僕に会いにくることはないんだろう。そう思うと彼女の手を掴んで縋りたくなった。しかし、そんな勇気さえ、僕にはない。ただひたすら自分の拳を見つめるばかりだった。

 

「はい」

彼女は、2つのマグカップを持って、僕に1つを手渡した。温かい何かがマグカップを満たしている。ほんのり香るのはスパイスだろうか。

「落ち着くよ。チャイラテ」

彼女は僕を捨てなかった。それどころか、彼女なりの方法で僕を支えようとしてくれていた。彼女の入れてくれた飲み物を一口飲むと、喉がつかえるようなかんじがした。

「生きる価値があるんだろうか。生きてていいんだろうか」

僕は自分に尋ねるように口に出す。

彼女は言った。

「死ぬことだけが生きることから逃げる道ではないんだよ」

 

三題噺/140字小説

「どうせなにをやってもダメなんだ」
心折れた、とばかりに少年は呟いた。冬の夜は冷えるが、彼は御構い無しといった様子で道路を一人歩いていく。小さなサーカス団の見習いパフォーマーである彼は、厳しいマスターの教育に嫌気がさしていた。それが愛情とは、まだ気づけない。

 

お題

サーカス団、道路、心折れた

 

 

 

三題噺

5月10日、僕は、財布を忘れて、時計を忘れて、大雨に降られて、彼女に振られた。


今日はきっと、星座占いで最下位だったんだろう。普段気にもしない占いは、こういう時に役に立つ。こんなツイてない日は、明日に期待するしかない。きっと明日は今日よりいい日だから。

店先で雨宿りをしながらボーッと空を見つめる。厚い雲が遠くまで広がっている。しばらくは止まなそうだ。財布もないので店に入れない。時間を潰そうと、鳴りもしない携帯を取り出し、無意識に写真フォルダを開く。写真の中の僕は、彼女の隣で笑っている。そんな写真も今の僕には塩でしかない。目に入った写真全てを削除する。残った写真は、その時は綺麗だと思った夕日とか、その時は忘れたくないと思った言葉とか、猫とか。今となっては何も響かない。理解ができない。確かに僕だったはずのパーツが、僕じゃなくなる感じがした。

 

雨は止まない。もういっそ濡れて帰ろうか。家までは15分ほどかかるが、別に風邪を引いてもいい。よし、歩いて帰ろう。
一歩踏み出したその時、店の扉がカランコロンと開いた。店の名前さえ目に入っていなかったが、ここはどうやら女性向けの店らしい。出てきたのは、ガーリーな服を着た女の人。彼女と目が合った。


「あのっ、濡れちゃうんで、これ」
そう言って彼女は、小さな猫のイラストが描かれた可愛らしい折り畳み傘を僕に向かって差し出す。これは、使っていいということなんだろうか。
「いや、大丈夫です…。それ、売り物ですよね?僕今日、生憎財布を持っていなくて…。これくらいで風邪は引かないだろうし、お気持ちだけ。ありがとうございます。すみません」
僕は出来るだけ言葉を選んで、ゆっくりと言った。彼女はそれを聞いて、首を振った。
「いえ、これは売り物じゃないです。お金もいりません。風邪は引かないかもしれないですけど、私が放っておけないんです」
そう言って傘を無理やり僕の手に押し込む。


「では、仕事に戻ります」
彼女はニコッと目を細めて、僕に会釈をし、カランコロンと扉を鳴らし店内に戻った。
あまりに急なことで僕の心は追いついていない。手に押し込まれた折り畳み傘を眺めてみる。
(猫、好きなのかな)
なんて思いながら傘を開き、店内を見る。彼女はレジで何かを書いていたが、僕の視線に気づいたのか顔を上げ、手を振ってくれた。僕はそれに会釈で答え、その店を後にした。


財布を忘れ、時計を忘れ、大雨に降られ、彼女に降られた日。僕は、ある女の子に恋をした。しかし、それに気づくのは、もう少し後の話。

 

お題

財布、大雨、意識

140字小説

「うあっ……」
ハサミ右手に鏡の前で呆然と立ち尽くす。左手には、切りすぎた前髪。少しだけ切るつもりだったのに…。眉毛の上でぱっつんと切られた前髪を抑えながら(いつまでに伸びるかな)などと考える。
「まあいいかー」
きっと彼は私を見て笑う。でも絶対私を好きでいてくれる。

#140字小説