もの置き場

日々の妄想とかを雑にまとめたブログです。 初めての方はaboutページをご一読お願い致します。

鏡芽衣+音二郎

『お節介焼き音二郎』

 

「……はあ。」
相談役、川上音二郎は呆れたような気の抜けたような返事をする。
「鏡花ちゃん、その相談、何回目だってんだよ……」
やれやれと大げさに肩をすくめ、真っ赤になっている相談者、泉鏡花の方をちらりと見やる。
「ぅ、うるさいなあっ!! 僕だってお前にこう何回も相談したくはないけど、しょうがないだろ!」
「いやあでもねえ鏡花ちゃん。 『彼女が自分より肉の方が好きみたいだから不安だ』なぁんていう相談を好き好んで聞きたがる奴なんていねえよ……。一回ならまだしも、お前らが付き合い始めてから百回はその相談されてるぞぉ」
「今日で五回目だっ!!大袈裟にしすぎだよっ!!」
全く、とプリプリしながら鏡花は脚を組みなおす。 
鏡花の彼女、綾月芽衣は、本当に肉のこととなるとどうしようもない。 特に牛鍋となると、周りの人なんてまるで全く見えていないかのように、黙々と一人食べ続けてしまう。
「いやあ、鏡花ちゃん。 この際はっきり言わせてもらうけど、鏡花ちゃんがあいつの中で肉に勝つのは無理だよ。 それこそ、豆腐の角で頭を割るようなもんだ。 肉に勝とうなんざ諦めて、人類の中で一位とか、食いモン以外で一位とか、それじゃあダメなのか?」
音二郎は弟をあやす様な声で鏡花を諭した。 しかし鏡花の方は全く納得いかないというような態度で、
「いや、ダメなんだよ。 男なんだから、牛肉なんかに負けていられるか!!」
「はいはい……」


――結局この議論は決着がつかなかった。 疲れ切った鏡花は、
「自分でもう一度考えるっ!」
と言い捨て、出て行ってしまった。
「騒々しいなァ。相変わらず」
音二郎はぼりぼりと頭を掻きながら考える。
(肉に負けていると思ってんのは鏡花ちゃんだけなんだよな……。でも、あいつは芽衣に母親並みの愛情を求めている。 いや、それ以上の深い愛を。 それを鏡花ちゃんに気付かせるのも酷だし、何より芽衣の負担になりかねない。このままっていうのも、俺的にはどうかと思うが……)
「どうしたもんかなァ……」
音二郎のお節介による苦悩は、まだ終わりが見えない――。

 

「お節介焼き音二郎」 - 即興二次小説

カオここ

『君は君らしくでいいよ』

 

カオル君と知り合ってから3カ月がたった。 ミスプリのためのミスプリ貯金をひったくりに盗られてから、私の人生は180度変わり、私は今や4人の執事の主となっている。 もちろん令嬢修行は続けており、至らぬところを要に叱責されることが日常だ。 
カオル君も、私の大事な執事の一人だ。 彼は感情をあまり表に出さずひょうひょうとしており、最初は嫌われているのかとも思ったが、なんだかんだで私の特訓に律義に付き合ってくれている。 正直私の中学に転校してきたときは驚いたが。 私とは正反対で、何でもできて、かっこよくて、クラスの、特に女子からの人気が高い。 本人は心底嫌そうにしているが、私は、そんなカオル君が私の執事で、仲間であることを心から誇らしく思っている。 
「今日は寒いね、カオル君。 マフラーしなくて大丈夫?」
「…… 大丈夫、アンタこそ鼻が赤くなってるけど。」
ぱっと携帯の内カメラで確認をすると確かに、鼻先が寒さで赤くなっている。
「うわーほんとだ、トナカイみたい。」
「……? なんでそこでトナカイが出てくるの?」
「えっカオル君知らないの?! 幼稚園の時歌わなかった? 真っ赤なお鼻の~って?」
カオル君はきょとんとした顔で、急に歌いだした私をじっと見つめている。
「カオル君でも知らないことってあるんだね。 なんか嬉しい。」
「そりゃあるよ。特にアンタと知り合ってからは解らないことが増えた。」
「私?」
そういってカオル君の顔を覗き込むと、心なしか顔が赤くなっていた。
「カオル君、顔赤いよ、やっぱり寒いんでしょ。 私コート着てるし、このマフラー使って。」
おもむろに自分の首につけているマフラーを外し、背伸びをしつつ彼にふわっと巻き付けると、彼は小声で、
「…なんでこんな気持ちになるのか解らない。 ずっと、君とバルコニーで話した時から、胸が変な感じだし。 こんな気持ち、知らない。」
とつぶやいた。
「えっカオル君体調悪いの?!まだ私の家からそう離れてないし、引き返そうか?」
「いい、いくよ。」
私のマフラーをそっと巻き直すと彼はすたすたと先を歩いて行ってしまった。 ぶっきらぼうで執事らしくないその振る舞いに戸惑うも、私は彼の口角がすこしだけ緩んでいたのを見逃さなかった。

カオここ

『飾らない君が』

 

「カオルくん、Snowって知ってる?」

ある日の帰り道、話題を探していた私はふと思いついて彼に尋ねた。

「スノー?雪?」
「ううん、Snowっていうアプリなんだけど…。見せたほうが早いよね。ちょっと待ってね」
と言ってごそごそと鞄から自分のスマホを出し、Snowを開く。
「こうして、写真を撮ると、すごい可愛くなるんだよ!別人みたいに!」
と言って試しにカオルくんを撮ってみる。カオルくんはもともと端正な顔だから、あまり盛れなかったけれど、いつものツンとしたクールな顔が、少し可愛らしく加工されていた。
「わぁ、カオルくん美人さん!」
先ほどよりむすっとしているカオルくんと、画面の中のカオルくんを見比べながら笑う。
「……。貸して」
ふっと差し出された手に、わたしは反射的にほいっと携帯を置く。
カオルくんはおもむろにレンズを私の方に向け、ボタンを押した。
「はい。……可愛く撮れたよ」
渡された画面に映っていたのは、何の加工もされていない、いつもの私の顔だった。

「うぇっ、カオルくんこれ、普通のカメラだよっ!?」
「だから?」
ぶっきらぼうにいうとカオルくんはスタスタと前を歩いて行ってってしまった。
「えっちょっ……」

手元に残された携帯にもう一度目をやる。じっとこちらをを見つめる私の顔は、少しだけ赤らんでいた。
(もしかして私、カオルくんといる時、いつもこんな顔してるの……?)
そう考えた瞬間顔が熱くなり、私は恥ずかしさをかき消すべく、カオルくんの後を追いかけた。


あの時さりげなくカオルくんが、「可愛く」と言ったことに私が気づいたのは、もう少し後だった。

140字小説, 文カナ

「文太くん?」
立ち上がろうとした私の右手を文太くんの大きな手がしっかり捕まえている。
「……」
泣きそうな顔で見つめる彼が愛しくて、私は笑う。
「もう少し、ここにいていいかな?」
「ん……」
たまには素直になれなくてもいいよ、と私は心の中で呟いた。
#ペンタゴンシンドローム

 

 

140字小説

「……殺してくれ」
誰もいないベランダで呟く。風が冷たい冬の夜。このままここにいたら朝には凍死してるかな、なんて考えながら町を見下ろす。そのとき、俺と目があったのは、ロープを首に巻きつけた、向かいのアパートに住む少女だった。彼女は俺を見つめながら、何かを言った。

#140字小説

 

 

140字小説

言い方が悪い。君の言葉には、チクチクと棘が含まれすぎている。そんなことを言われた相手が、どんな気持ちになるか考えろ。もう何も喋らなくていい。不愉快だ。

「俺にだけ、話しかけてくれればいいんだ」

#140字小説